平成20年度税制改正の概要

【骨 子】

1.減価償却制度

機械及び装置」の法定耐用年数の大幅な改正がなされました。

「法定耐用年数の償却区分の簡素化」を目的としたものです。、

2.事業承継税制(平成21年度の税制改正で導入される予定)

「中小企業の事業の継続の円滑化に関する法律」の施行日(平成20101日)以後に開始した相続等に適用される予定です。その骨子は、「取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度」が創設されました。

3.上場株式等の「譲渡所得等」および「株式配当」の軽減税率の措置
  上場株式等の「譲渡所得等」および「株式配当」に係る10%(所得税7%・地方税3%)の軽減税率が平成
20 年1231日をもって廃止されました。同時に経過措置として、一定の金額以下(譲渡所得等500万円・配当所得100 万円)のものについては、10%の税率が継続されることになっています。さらに、平成21年分以後の所得税からは、上場株式等の譲渡損失と上場株式の配当所得との間の損益通算が可能になります。

4.地方法人特別税および地方法人特別譲与税の創設
  地方法人特別税」および「地方法人特別譲与税」が創設されました。

5.国税通則法の見直し
  国税通則法の見直しが行われ、「異議申し立て」が「再調査の請求」に変更になる予定です。


【具体的内容】

1.減価償却制度の改正内容

わが国の改正前の法定耐用年数については、「減価償却資産の耐用年数に関する省令」できていされており、別表 一から別表八までの8種類の耐用年数表が規定されていました。平成20年度の税制改正に伴い、以下のような区分 に変更されました。

別表第一

機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表

別表第二

機械及び装置の耐用年数表

別表第三

無形減価償却資産の耐用年数表

別表第四

生物の耐用年数表

旧別表第五

汚水処理用減価償却資産の耐用年数表

旧別表第六

ばい煙処理用減価償却資産の耐用年数表

旧別表第七

農林業用減価償却資産の耐用年数表(削除)

旧別表第八

開発研究用減価償却資産の耐用年数表(新別表第六)

新別表第五

公害防止用減価償却資産の耐用年数表


平成19年度の税制改正のポイント

【 法人編 】

平成18年度は商法の大改正により、新たに『会社法』が制定され、会社法会計として企業会計にも大きな影響がありました。また、税制についても、いろいろと見直しがされています。
平成19年度においては、新たに以下のような税制の改正が実施されることになりました
1.減価償却の税制改正(解説
国際的なイコールフッティング平等な市場参入条件)を確保し、投資の促進を図るべく、2007年度の税制改正により、大正7年に制度が導入されて以来、40年振りに減価償却制度が抜本的に見直されることになりました。減価償却制度の改正のポイントは以下のとおりです。
(1) 償却限度額及び残存価額の廃止
@ 平成1941日以後に取得をされた減価償却資産に関して、償却限度額(取得価額の95%)及び残存価額が廃止され、法定耐用年数の経過時点に「残存簿価1円(備忘価額という)」まで償却できるようになりました。
A 平成19331日以前に取得された減価償却資産に関しては、その名称が旧定額法、旧定率法等と改められた上、従来の制度が維持されますが、既に償却費の累計額が、取得価額の95%相当額(従前の償却可能限度額まで到達している減価償却資産については、その達した事業年度の翌事業年度(平成1941日以後に開始する事業年度に限られます。)以後において、5年間で、残存簿価1円(備忘価額)まで償却できるようになりました。
B 新たな定率法250%定率法といわれる)が導入され、定額法の償却率原則2.5倍に設定された「定率法の償却率」が適用され、従前の制度に比べて、早い段階で多額の償却が可能となることから、投資の促進が図られることになります。
(2) 法定耐用年数の見直し
技術革新のスピードが早く、実態として使用年数の短い下記の減価償却資産について、法定耐用年数が短縮されました。
・フラットパネルディスプレイ製造装置    10年 → 5年
・フラットパネル用フィルム材料製造設備   10年 → 5年
・半導体用フォトレジスト製造設備       8年 → 5年
(3) 減価償却の方法
@ 定額法
2007年度の税制改正により、法定耐用年数経過時点で残存簿価が1円(備忘価額)になるまで償却することが可能になります。
A 定率法
通常250%定率法(定額法の償却率を2.5倍した償却率で償却)ともいわれる新たな定率法が導入されました。この方法で算出された償却率で計算された金額が、取得価額に保証率を乗じて算出される一定の金額を下回る場合には、償却方法を定率法から定額法に切り替えて、耐用年数経過時点において定額法と同様に残存簿価1円(備忘価額)を残して、取得価額のほぼ全額を償却することが可能となるものです。

2.役員給与の課税の取扱い
(1) 定期同額給与の範囲
・定期同額給与の範囲に、次の2つの給与が追加されました。
@ 職制上の地位の変更(専務が社長に昇格など)により改定された定期給与
A 役員の職務内容の重大な変更その他これに類する止むを得ない事情により改定された定期給与
(2) 事前確定届出給与の提出期限
・従来は、職務開始する日、または会計期間開始の日から3か月(保険会社は4月)を経過する日、のいずれか早い日にしなければならないとされていましたが、改正後においては、次のように改正されました。
@ 役員給与の決議をする株主総会等の日(職務執行開始の日)から、1か月を経過する日
A 会計期間開始の日から4か月(保険会社は5ヶ月)を経過する日
(3) 事前確定届出給与の変更届出期限
・次のような理由で、事前確定届出給与が改定された場合の変更届出が認められました。
@ 役員の職制上の地位の変更・職務内容の重大な変更その他これに類する止むを得ない事情による改定の場合
その改定事由が生じた日から1ヶ月を経過する日
A 経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由による減額改定の場合は、次のいずれか早い日・株主総会等の決議の日から1ヶ月を経過する日
・改定前給与の支給日の前日
(4) 非同族会社の役員給与
・非同族会社の支給する
@ 定期給与を受けていない役員に対する給与については届出が不要になりました。
(5) 改正後の役員給与の損金不算入の取扱
・以下の4つのいずれか一つにでも該当しない場合の役員給与は、損金不算入となります
 @ 定期同額給与
 A 定期給与以外の給与(非同族会社の支給する役員給与で、定期給与の支給を受けていない役員給与をいいます。)
 B 事前確定届出給与(事前確定届出給与を所轄税務署長にしているもの)C 非同族会社業務執行役員利益連動給与

3.特殊支配同族会社(実質一人会社)の役員給与の損金算入
(1) 適用除外基準の見直し
・平成18年度改正では、特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入の適用除外基準は、基準所得金額が800万円とされていましたが、平成19年度の改正では、中小零細企業への配慮から、適用除外基準の見直しが行われて、基準所得が1,600万円に引き上げられました。(平成19年4月1日以後に開始する事業年度の法人税について適用されます。)
なお、基準所得金額とは、「その法人の課税所得金額に業務主宰役員給与額」を加算した金額をいいます。
(2) 適用除外となるケース
・次の2つのケースの場合に該当します。
@ 基準期間がある特殊支配同族会社の場合
・その特殊支配同族会社の所得等の金額として計算される金額(所得の金額に、所得等の金額の計算上、損金の額に算入されたその給与の額の合計額を加算した金額をいいます。)の直前3年以内に開始する各事業年度における平均額(これを前3年基準所得金額といいます。)が年1,600万円以下である場合、およびその平均額が1,600万円超、3,000万円以下であり、かつ、その平均額に占めるその給与の額の割合が50%以下である場合には、全額損金の額に算入することができます。

a. 前3年基準所得金額 1,600 万円 又は
b. 1,600万円 < 前3年基準所得金額 3,000万円 で、かつ
  前3年業務主宰役員平均給与額 ÷前3年基準所得金額 50
A 基準期間がない特殊支配同族会社の場合

以下の基準に該当する場合は、全額損金の額に算入することができます。
a. 当年度基準所得金額 1,600 万円 又は
b. 1,600万円 < 当年度基準所得金額 3,000万円 で、かつ
   当期業務主宰役員給与額 ÷当年度基準所得金額 50

4.中小同族会社に対する留保金課税制度の撤廃
(1) 資本金の額又は出資金の額が1億金以下の特定同族会社は、平成19年度の改正により適用対象から除外されました。この改正は平成19年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。
(注)平成18年度の法人税改正により、同族会社の定義が3種類に類型化されました。

一般に「同族会社」といわれるものは、通常の「同族会社」、「特定同族会社」と「特殊支配同族会社」があります。
.同族会社とは、株主等(その会社が自己株式等を有する場合のその会社を除く)の上位3グループ(これ  らと特殊の関係にある個人や法人を含む)で、発行済株式総数(自己株式を除く)の50%超を有する会  社をいいます。

2.特定同族会社とは、「1株主グループによって発行済株式の50%超を保有されている会社」を被支配会社」とした上で、   この被支配会社の判定基礎株主の中に被支配会社でない法人がいた場合にその法人を判定から外した場合でも、被支配    会社である会社を「特定同族会社」といいます。

平成18年度の税制改正では、留保金課税の対象となる同族会社の範囲は、この「特定同族会社」に限定されました。

3.特殊支配同族会社とは、
(a)同族会社の業務主宰役員グループが発行済株式の90%以上を保有する。
(b)業務主宰役員及びその役員と特殊の関係のある常務に従事する役員数が常務に従事する役員数の過半数をしめる。この(a)と(b)の両方を満たす同族会社を「特殊支配同族会社」といいます。

【 個人 編 】

平成18年度における国から地方への3兆円規模の税源移譲によって、平成19年分から、所得税および住民税が大きく変わりました。また、平成19年度の税制改正では、新「住宅ローン控除の特例」制度、新「バリアフリー回収促進税制」制度等の導入のほか、土地・住宅税制および金融・証券税制等の見直しが行われます。

1.所得税および住民税の改正と社会保険料への影響
(1) 所得税の税率変更
    国から地方への3兆円規模の税源移譲に伴い、平成19年1月徴収分から所得税の税率構造が改正  されました。

     改正前(4段階)

課税所得 税率
330万円以下 10%
900万円以下 20%
1,800万円以下 30%
1,800万円超 37%

     改正後(6段階)

課税所得 税率 控除額
195万円以下 5%
330万円以下 10% 97,500円
695万円以下 20% 4287,500円
900万円以下 23% 636,000円
1,800万円以下 33% 」、536,000円
1,800万円超 40% 2,796,000円

(2) 個人住民税の変更
個人住民税の税率構造が改正され、道府県民税4%、市町村民税6%に一本化され、合計の個人住民税は一律10%とされました。(平成19年6月徴収分以降に適用)

       改正前

区分 課税所得 標準税率
道府県民税 700万円以下 2%
700万円超 3%
市町村民税 200万円以下 3%
700万円以下 8%
700万円超 10%
合計 個人住民税 200万円以下 5%
700万円以下 10%
700万円超 13%

           改正後

区分 課税所得 標準税率
道府県民税 一律 4%
市町村民税 一律 6%
合計個人住民税 一律 10%

(3) 人的控除額の所得税との較差調整のための減額措置
 個人住民税の課税所得が200万円までで、5%税率適用者であった人にとっては、所得税と個人住民税のそれぞれの人的控除に差があることから、個人住民税の税率が一律10%になることによって、税負担が増加する層が出てきます。そこで、個人住民税の課税所得金額が200万円以下である者と、200万円超である者について、個人住民税所得割額から、次の金額が減額されます。

個人住民税の課税所得金額

減額される金額

@ 200万円以下の者

イとロのいずれか小さい額の5%

イ 人的控除額の差の合計額
ロ 個人住民税の課税所得金額

A 200万円超の者

〔人的控除額の差の合計額−(個人住民税の課税所得金額−200万円)〕の5%
ただし、この額が200万円未満の場合は、2,500円とする。

(4) 定率減税の廃止

(5) 住民税の増額に伴う社会保険料への影響
3兆円の国から地方への税源の移譲に伴い、個人の住民税が増えることで、国民保険料や介護保険料などの社会保険料に増額となって反映されることになります。
@ 国民保険料の仕組み
・国民保険料は「医療分(基礎賦課額)」と介護分(介護納付金賦課額)」から構成されています。この国民保険料は、一律の料金ではなく、被保険者の年齢によっても異なります。基本的な国民保険料の算式は、以下の通りです。

(医 療 分)                       (介 護 分)
保険料=所得割額 + 被保険者均等割額 + 所得割額 + 被保険者均等割額
    (イ)              (ロ)            (ハ)           (ニ)

(イ):被保険者の保険料額算定のための市民税額合計×医療分所得割料率(1.52
  (ロ):被保険者数×医療分均等割料率(額)(42,620円)
  (ハ):40歳以上65歳未満の被保険者の市民税額合計×介護分所得割料率(0.45

(ニ):40歳以上65歳未満の被保険者数×介護分均等割料率(額)(13,520円)
A 国民保険料の算出の事例

年齢

市民税

医療分

介護分

世帯主

58

420,000

あり

あり

55

0

あり

あり

27

120,000

あり

なし

子の妻

25

0

あり

なし

合 計

540,000

@.医療分 @ 所得割額 540,000円  ×    1.52 =  820,800円
           A 被保険者均等割額 4   ×  42,620円=  170,480円

A.介護分 B 所得割額 540,000円  ×  0.45   =  243,000円
           C 被保険者均等割額 2人 × 13,520円 =    27,040円

【国民健康保険料額】=@+A+B+C  =1,261,320円
                                      (月額  126,132円)

A 住民税の増額に伴う国民保険料の増額(上記の説例)
     税源移譲に伴い、住民税のうち、市民税は課税所得の6%であるが、従来に比べて、
     市民税額が仮に5%増えると仮定すると、国民健康保険料は、53,190円と従来に比べて
     4.2%の増額になります。

@.医療分 @ 所得割額 540,000円×1.05%×1.52=  861,840円
            A 被保険者均等割額 4人 ×  42,620円=  170,480円
  A.介護分 B 所得割額 540,000円×1.05%×0.45=  255,150円
           C 被保険者均等割額 2人 × 13,520円=    27,040円
          【国民健康保険料額】=@+A+B+C  =1,314,510円
                                     (月額  131,451円)

. 新「住宅ローン控除の特例制度」の創設
(1) 住宅ローン制度は段階的に規模を縮小させつつ、平成20年入居分を最後に、制度が廃止されることになっています。平成19年1月から国から地方に税源が移譲されることに伴い、所得税と個人住民税の負担割合が変わることから、中低所得層の多くは住宅ローン減税の対象となる所得税が減少する一方において、個人住民税は住宅ローン控除が適用されないことから、個人住民税の負担額が増加することになります。
暫定的な措置として、住宅ローン等を利用して住宅を取得し、平成19年から平成20年の間に居住の用に供した場合には、新たしく創設された「住宅ローン控除の特例制度」を適用されることとなりました。
(2) この特例措置は、住宅ローンを有する場合の所得税の特別控除制度(従来型)との選択適用とされており、控除期間は最長で15年(従来は最長10年)となります。また最高控除額は従来同様に平成19年居住分は200万円、平成20年居住分は160万円です。

. 新「バリアフリー改修促進制度」の創設
高齢者(50歳以上の者)がいる世帯がローンによりバリアフリー改修をする際の減税措置をいいます。毎年末のローン残高(限度が200万円)の2%に相当する額を、5年間にわたり、所得税額から控除することができものであり、その他の増改築費用と併せて、最高で年間12万円(5年間で60万円)の所得税額の控除ができる制度です。
この特例は、従来からの住宅の増改築に伴う住宅ローンの増改築に伴う住宅ローン控除又は住宅ローン控除の特例(税源移譲に伴う特例措置)との選択適用が可能です。

. 土地・住宅に関する税制の改正措置
 高齢者(50歳以上の者)がいる世帯がローンによりバリアフリー改修をする際の減税措置です。毎年末のローン残高(200万円が限度)の2%にあたる額を、5年間にわたり所得税額から差し引くことができ、その他の増築費用とあわせ、最高で年間12万円(5年間で60万円)の所得税額の控除ができる制度です。